専門用語が家族に伝わらない。AIを"言い換え役"にして説明文をつくる
目次
- ―1)例1:リハビリの目的説明
- ―2)例2:家族向けのお便り文
利用者さんのご家族や他職種に説明するとき、つい専門用語のまま話してしまって、相手の表情が固まる──そんな経験はありませんか。ChatGPTやGeminiのようなチャット型AIに「これを、医療の知識がない家族向けに言い換えて」と頼むだけで、伝わる言葉に翻訳ではなく”言い換え”てくれます。難しい業務改革ではありません。誰もが毎日やっている「説明」を、少し楽にする話です。
この記事で使うもの:
- ChatGPT / Gemini / Claude のどれか1つ(無料で始められるチャット型AI。どれでもできます)
- 普段あなたが使っている説明の言葉(カルテの記録文、お便りの下書きなど)
「AIを仕事で使う最初の一歩、何から始めれば?」と迷っている方にこそ、ここから入ってほしいと思っています。
なぜ専門用語は家族に伝わらないのか
「立位保持の耐久性が向上してきました」。 「移乗は軽介助レベルです」。 「内反尖足の予防のために装具を使っています」。
私たち専門職どうしなら、これで一発で通じます。でも、ご家族にこのまま伝えて、本当に届いているでしょうか。
正直に言うと、私自身も意識していないとできていません。現場のPT管理職という立場でありながら、家族説明やサービス担当者会議の場で、つい「ADLが」「耐久性が」と口から出てしまう。相手が「はい、はい」とうなずいてくれるので、伝わった気になってしまう。でも後日、「あれは、こういうことでしたっけ?」と改めて確認が入る。きちんと届いていれば、そんな確認は要らなかったはずなんです。そういうことが、実際にあります。
専門用語が伝わらないのは、相手の理解力の問題ではありません。その言葉が、相手の生活の中に存在しないからです。「移乗」という単語を日常で使う家族はいません。でも「ベッドから車いすに移るとき」と言えば、その光景がすぐ浮かびます。
しかもこれは、家族説明だけの話ではありません。
- 多職種連携:看護師には通じても、送迎ドライバーや事務職には伝わらない言葉がある
- サービス担当者会議:ケアマネ・家族・各サービス事業所が同席する場で、一番”翻訳”が必要になる
- 通所リハビリテーション領域でのお便り・通信:不特定多数のご家族が読む文章こそ、専門用語が事故になりやすい
「分かりやすく説明する」って、できているようでできていない。これは能力の高い低いの話ではなくて、意識していないと誰でも専門用語に戻ってしまう、という話なんだと思います。だからこそ、AIにその”言い換え”を手伝ってもらう価値があります。一緒に気をつけていきましょう、というのが今日の趣旨です。
AIに任せると、説明文はこう変わる
実際にどう変わるか、例で見ていきます。ここで挙げるのは説明のための一般的な例文です(特定の利用者さんのものではありません)。
例1:リハビリの目的説明
Before(専門職の言葉)
立位保持の耐久性向上を目的に、下肢筋力トレーニングを実施しています。
After(家族の言葉に言い換え)
立っていられる時間を少しずつ延ばせるように、足の力をつける練習をしています。
言っている中身は同じです。でも後者なら、家族は「ああ、立つ練習をしてくれているんだな」とすぐ分かる。「立位保持の耐久性」を「立っていられる時間」に置き換えただけで、景色が変わります。
ここがこの記事の一番のポイントなのですが、これは英語を日本語にするような”翻訳”ではありません。専門用語を別の専門用語に置き換える作業でもありません。**相手の生活の言葉に噛み砕く”言い換え”**です。「耐久性」を「持久力」と言い換えても家族には伝わらない。「立っていられる時間」まで降りてきて、はじめて届きます。
例2:家族向けのお便り文
通所リハの利用者さんのご家族に渡す、月1回のお便り。こういう文章こそAIが効きます。
Before
〇〇様は移乗動作が軽介助レベルとなり、ADLの改善が見られます。今後も立位バランスの向上を目指してアプローチを継続します。
After
〇〇さんは、ベッドから車いすに移るときに、少しの支えで移れるようになってきました。日々の生活の動作が、着実に良くなっています。これからも、ふらつかずに立っていられるよう、サポートを続けていきます。
「移乗動作が軽介助レベル」「ADL」「立位バランス」── この3つの専門用語が、すべて生活の言葉に変わりました。家族が読んで安心できるのは、明らかに後者です。
- 言い換えは”翻訳”ではなく、相手の生活の言葉に噛み砕く作業
- 「移乗」→「ベッドから車いすに移るとき」のように、その人が見ている景色まで降りる
- AIは、この”降ろす”作業を一瞬でやってくれる
言い換えプロンプトの型
ただ「分かりやすくして」と頼むだけでも、それなりに返ってきます。でも、もう一段精度を上げるコツがあります。「誰に・何を・相手の前提」の3つを指定することです。
- 誰に向けてか ── 本人/家族/ケアマネ/他職種など。読む相手で語彙レベルが変わる
- 何を伝えたいか(事実) ── これは変えてはいけない中身。ここがブレると意味がない
- 相手の前提 ── 医療知識なし/不安が強い/高齢で長文が苦手、など
この3つを指定すると、AIは語彙のレベルをぐっと相手に合わせてくれます。コピペで使えるプロンプトがこちらです。
あなたは、医療介護の専門用語を一般の方向けに言い換えるのが得意な編集者です。
以下の文章を、医療の知識がないご家族が読んで安心できる言葉に言い換えてください。
【読む相手】利用者本人のご家族(医療・介護の専門知識はありません)
【伝えたい事実】※ここは絶対に変えないでください
(例:立位保持の耐久性向上のため、下肢筋力トレーニングを実施している)
【相手の状態】高齢で、専門用語に不安を感じやすい
条件:
- 専門用語は、その人の生活の場面が思い浮かぶ言葉に置き換える
- 事実を盛ったり、良く見せようとして誇張したりしない
- やさしいが、子ども扱いにならない丁寧な文体で
【伝えたい事実】の部分を、あなたの記録文や下書きに差し替えるだけです。 「もう少し短く」「もっと温かい感じで」と追加で頼めば、その場で直してくれます。ここがチャット型AIの便利なところで、一発で決めなくていい。対話しながら、ちょうどいい言葉に寄せていけます。
ChatGPTでもGeminiでもClaudeでも、同じプロンプトで動きます。まだどれも使っていなければ、Googleアカウントですぐ始められるGeminiが入りやすいかもしれません。
つまずきポイントと注意
便利な使い方ですが、現場で使う以上、外せない注意が2つあります。
個人情報をそのまま入れない。 氏名・生年月日・病名などを組み合わせて入力すると、利用者さんが特定できる情報になります。AIに渡すときは「〇〇さん」「利用者A」のように仮名化し、特定につながる情報は外してください。
例文の「〇〇さん」を実名のまま貼り付けない、というだけのことですが、これが一番やってしまいがちな落とし穴です。何を入れてよくて何を外すべきか、入力する内容そのものの線引きや「学習に使われないAIの選び方」は、別の記事で詳しくまとめています(この記事の最後にカードを置いておきます)。
もう1つ。
AIは、優しくしようとして事実をぼかしたり、少し盛ったりすることがあります。 「良くなってきました」と書かせたら、実際よりポジティブな表現になっていた、ということが起こり得ます。家族説明や記録は、事実が命です。
だから最後は必ず人がチェックします。AIが出した言い換え文を、
- 事実が変わっていないか
- 盛られたり、逆に弱められたりしていないか
- その家族に対して失礼な表現になっていないか
この3点で、自分の目で確認してから使う。AIは下書きを速くする道具であって、事実を担保するのはあなた自身です。ここだけは譲らないでください。
まとめ:これがAI活用の最初の一歩にちょうどいい
最後に要点を整理します。
- 専門用語が家族に伝わらないのは、その言葉が相手の生活の中にないから
- 「分かりやすく説明する」は、意識していないと誰でも専門用語に戻る。能力ではなく習慣の問題
- AIに頼むのは”翻訳”ではなく、相手の生活の言葉への”言い換え”
- プロンプトは「誰に・何を・相手の前提」の3つを指定すると精度が上がる
- 個人情報は仮名化し、最後は必ず人が事実をチェックする
業務を大きく変える話ではありません。家族へのお便り、会議での一言、記録の下書き── あなたが毎日やっている「説明」を、ほんの少し楽に、ほんの少し伝わるものにする。それくらいの軽さで始められるのが、この使い方のいいところです。AIを仕事に取り入れる最初の一歩として、これ以上ない入口だと思っています。
ちなみに、こうして「専門用語を相手の言葉に置き換える」訓練は、AIを使わない普段の説明力そのものを鍛えてくれます。“言語化”そのものをテーマにした話も、noteで準備しています。
まずは、個人情報をどう扱うか・どのAIなら安心して使えるかを、こちらで確認しておくと安心です。
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