目次
- ―1)何をしたか
- ―2)現場の他スタッフでも回せる手順書に
- ―1)何をしたか
- ―1)何をしたか
- ―2)赤入れは「語尾」と「ロジック」まで
「今度の学会、発表やってみない?」
医療介護の現場では、上司や先輩からこう声をかけられることがあります。でも、学会発表なんてやったことがない。何から準備すればいいのかわからない。データの取り方も、抄録(発表の要旨)の書き方も見当がつかない――。「出してほしい」と言われても、そこで固まってしまう。これは、多くの現場スタッフが抱える悩みのひとつだと思います。
私も今回、上司からヒヤリハットアプリの取り組みを発表してほしいと頼まれました。締め切りまで時間はわずか。発表の経験が豊富なわけでもありません。そこで相棒にしたのがAIです。
発表のテーマ設計から、アンケート用紙づくり、データの集計、そして抄録の執筆まで。一連の流れをまるごとAIと進め、今月末の提出期限にぎりぎり間に合いました。ある学会のポスター演題です。
「AIに抄録を丸ごと書かせた」という話ではありません。発表の準備で本当に困るところ――何を発表するかのアイデア出し、評価のしかた、先行事例の収集、抄録の文脈整理――を、AIと一緒に乗り越えた記録です。
この記事で扱う構成要素は次のとおりです。
- 使ったAI:Claude(チャットでの壁打ち)/Claude Code(エージェント型・スプレッドシート作成やファイル処理)
- 題材:現場職員がAIで自作したヒヤリハット報告アプリの効果検証
- 工程:①テーマ・調査設計 → ②アンケート・計測シート作成 → ③データ収集・PDF集計 → ④集計 → ⑤抄録執筆
- 成果物:学会抄録(約1,140字)/評価記録シート/データ収集手順書
各工程で実際に打ったプロンプトと、つまずいたところを、そのまま見せていきます。ただ、その前に、この記事でいちばん伝えたいことを先に書いておきます。
それは、発表まわりでAIをどう使うかという「使い方の考え方」です。手順はあくまで一例にすぎません。大事なのは、どこをAIに任せ、どこは人がやるのか。その線引きです。
前提:AIに「いい感じにやっといて」と丸投げするのは、発表づくりでは絶対にやってはいけません。 ありもしないデータや結論をAIに作らせれば、それは嘘の発表になります。そんなことは一切していません。そのうえで――
- AIに任せて楽になるのは、アイデア出し・評価方法の設計・先行事例の収集・抄録の文脈整理。ここは時間も労力も大きく減ります
- 一番大事なデータの計測と分析、「なぜそれをやったのか」という意図、課題の考察は、人の手でやる。今回も、データは人が測り、分析と考察は自分の頭で組み立てました
- AIは「嘘の発表を作る道具」ではなく、「人がやるべき判断に集中できるよう、周りを助けてくれる相棒」
0. 何を発表したのか(結果も先に言います)
発表したのは、現場職員がAIで自作したヒヤリハット報告アプリを、既存のExcel方式と比べて検証した取り組みです。アプリそのものをAIで作った話は別のnoteにまとめていますが、今回は「その効果をどう検証し、発表の形にまとめたか」が主役です。
正直に結果を先に書きます。入力時間は、ほとんど短縮しませんでした。1件あたりの平均はアプリ731秒・Excel693秒で、むしろアプリが約5%長い。一方で、使用感アンケート(入力のしやすさ・操作の迷いにくさ・負担の少なさ)は全項目でアプリが上回りました。
「都合のいい結果が出ました」という話ではないんです。想定と違う結果も、そのまま抄録に書きました。むしろこの記事で伝えたいのは結果ではなく、そこに至るまでの準備の流れを、AIとどう進めたかです。
フェーズ1. 発表のテーマと調査項目を設計する
何をしたか
題材(ヒヤリハットアプリ)はもともと手元にありました。ゼロから探したのは「これをどう発表の形に落とすか」です。Claudeに学会の要綱PDFを読ませ、発表カテゴリ・倫理面の扱い・進め方を相談しながら、調査の設計を固めていきました。
最初の相談はこんな感じです。
ある学会に発表演題を登録する予定。締め切りが今月末。上司から
お願いされたので対応します。
発表テーマは、今作成しているヒヤリハットアプリでの業務効率化。
まずリサーチと、病院の中でどんなステップで進めていくかを相談したい。
アプリは実動はまだしていないのと、今は病院の許可を得て使用している
アプリではないという点もあります。
ここから、要綱PDFをドライブごと読ませて条件を詰めました。
演題申し込み要綱のPDFがGoogle Driveの中にあるのでチェックして。
病院は通所リハのある病院です。倫理委員会の承認の要不要も確認したい。
業務改善報告扱いでいけると思います。協力者はGRMと現場のリスクマネージャー。
発表形式はポスター。別プロジェクトとして切り出してください。
先行事例もAIに調べさせた
発表には「先行事例(似た取り組み)」の確認が要ります。ここはサブエージェント(調査役のAI)に任せました。
医療介護系での業務効率に関して、実作アプリの報告とかがあるかどうか
調べてほしい。引用文献ですね。加えて、ヒヤリハットの報告文化のことも。
結果、引用文献の候補が15件+追加11件。「通所リハ領域での現場開発アプリの報告はほぼ見当たらない=新規性がある」という位置づけが、ここで立ちました。
いちばんの工夫:あえてアプリに不利な条件で測る
計測の設計で、自分でロジックを立てた部分です。入力時間を「アプリ→Excelの順」で測ると、後にやるExcel側に慣れ(学習効果)が乗ります。つまりアプリにわざと不利な条件になる。それでもアプリが速ければ、効果は本物だと言える、という設計です。
入力時間の比較をしようと思います。先にアプリで入力し、次にExcelで入力
という順序の方が、前後の優位性がExcelの方に傾くので、アプリでの入力時間の
ベネフィットが明確になりやすいと考えます。いかがですか。
- AIは「壁打ち相手」として優秀ですが、肝心なところ(どう測れば公正か)は人間が決める。AIはその論理が破綻していないかを検証してくれる相棒、という距離感でした。
フェーズ2. アンケート・計測シートを作る
何をしたか
データを取るには、記録用の道具が要ります。計測シート・データ入力シート・使用感アンケート・スタッフ用の手順書。これらをClaude Codeでスプレッドシート(xlsx)として作りました。
評価記録シートは6つのシートで構成しました。
- 概要:評価の目的・方法・注意点
- 記録_入力時間:1件ごとのアプリ秒/Excel秒/差分/短縮率(数式入り)
- 記録_印刷工程:報告書作成から印刷・PDF化までの時間
- 主観評価:5段階アンケートの集計欄
- 集計:平均・短縮率を自動計算するサマリー
- コードブック:入力ルール・匿名化ルールの定義
現場の他スタッフでも回せる手順書に
計測は自分ひとりではなく、複数の職員にやってもらいます。だから「誰が見てもわかる」手順書が必要でした。
データ収集について。Google Driveの中に、どのようなやり方でデータ収集
するかがまとめられています。他のスタッフでもわかりやすくデータ収集
できるように、A4一枚の紙でやり方を整理してほしい。スプレッドシートの
概要の部分は一部僕が修正しているので、それを踏まえて。一回叩き台作ってみて。
叩き台を見て、アンケートの工程とタイミングを足しました。
入力の評価をした後にアンケートを取り、その流れも記載してください。
アンケートはその人の入力が終わるたびに取ります。
A4・1枚の手順書が完成。役割分担(入力者/計測者)・手順・記録列の早見表・個人情報の扱いまで、1枚に収まりました。
コードブックに「患者氏名・患者IDは扱わない/案件IDはA01などの仮番号」と最初に決めておくと、データを集める段階で個人情報が混入しません。倫理面の安全装置を設計時に仕込むのがコツです。
フェーズ3. データを集める
何をしたか
計測そのものは人の手です。ストップウォッチで秒を測り、スプレッドシートに入力していきました。ここはAIではなく人がやる工程です。
AIが効いたのは、紙アンケートの集計です。使用感アンケートは紙で配布しました。回収後、病院のプリンターでPDFにスキャンし、そのPDFをブラウザ版のClaude(claude.ai)にまとめてアップロードして集計しました。
指示はシンプルです。アンケートが何かを説明して、集計して、表にまとめてもらうだけ。
(スキャンしたPDFを添付)
これは使用感アンケートの回答用紙です。各項目は5段階評価。
内容を読み取って集計して。
そのあと、スプレッドシートにまとめて。
手書きの読み取りなので、AI任せにはしませんでした。自分の目でも全部確認しています。結果、読み取りミスはゼロでした。
手書き+AI読み取りは便利ですが、必ず人が検算する。数字がそのまま発表の結果になるので、ここは横着しないところです。
紙アンケート50枚超を集計した実例と、回答番号・PDFページを残して照合しやすくする方法は、こちらで詳しくまとめました。
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紙アンケート50枚超をClaudeで集計。AIで照合しやすくする方法
紙アンケート50枚超をPDF化し、Claudeで集計した現場実例です。1時間以上かかっていた作業は約4分の1になりました。さらに今なら、回答番号・PDFページ・原文を残した照合台帳を先に作り、人が確認しやすくする方法まで提案します。
フェーズ4. 集計する
データが揃ったら、スプレッドシートで自動集計です。平均入力時間・短縮率・主観評価の平均が、数式で出るように作ってありました(フェーズ2のシート)。
確定した数字はこうです。
- 計測:8件(新規発生事例3件・過去事例5件)/入力者8名
- 平均入力時間:アプリ731秒・Excel693秒(アプリが約5%長い)
- ただし過去事例だけで見ると、アプリ586秒・Excel638秒でアプリが約8%短い
- 使用感(有効回答7名):入力しやすさ アプリ4.6/Excel2.6 など全項目でアプリ優位
この「新規事例ではアプリが遅く、過去事例では速い」という分かれ方が、後の考察の核になりました。
フェーズ5. 抄録を書く
何をしたか
ここが「AIで抄録を書く」の本番です。やり方は決まっていて、まず自分の考察を全部しゃべる→AIに体裁を整えさせる→違うところだけ弾く、という流れでした。
最初に、目的・方法・結果・考察・結論を音声入力で一気に投入しました。
(音声入力で)データを集計した上での抄録のたたき台です。
目的は、AIを活用して自作したヒヤリハット報告ツールを作成し、その有効性を
検証した。方法は既存のExcel方式と新アプリの入力時間を計測し比較。
結論としては、計測時間では明確な有用性を認めなかったが、使用感では
Excelよりいい印象。日常業務に直接AIを使うのではなく、間接的に現場を
効率化するツールをAIで作ることで業務改善につながる、という主張。
赤入れは「語尾」と「ロジック」まで
AIが整えた文章を、そのまま使ったわけではありません。細かく直しました。たとえば語尾。
考察の文章、「状況を整理し言語化する時間が集中したためと考えられる」の
「考えられる」は好きではないので「集中したためと考えた」に。
そして、いちばん大事な「ロジックの一本化」。
目的の部分に課題を追加。もともとヒヤリハットの報告はExcelで入力した上で
紙で印刷して管理していて、集計して振り返る作業に負担があった。Excel入力
方式が操作しづらい。それを解消するためにAIを活用してアプリを作成した、
という経緯。これを一つの流れに組み込み、論理的なロジックの破綻が
ないように整理してください。
最後に演題名を確定しました。
タイトルはAを元にして。
「AIを用いて現場職員が自作した院内ヒヤリハット報告アプリ導入の試み
─ 入力時間と使用感の比較」
当初は「入力時間短縮」をタイトルに入れる案もありました。でも実データは短縮していない。だからデータと矛盾しないタイトルに変えています。ここも、AIに丸投げせず人が判断した部分です。
- 「考えはあるけど文章化が苦手」という人ほど、この使い方が効きます。考察を自分の言葉でしゃべって、AIに整形させ、違う部分だけ直す。ゼロから書くより速く、自分の主張は曲がりません。
考察:時短は限定的。でも、別の価値が見えた
ここからの分析と考察は、AIに出させたものではありません。出てきた数字を見て、自分の頭で組み立てたものです。この取り組みの肝になる部分こそ、人の手でやるべきところだと考えています。
計測時間では、アプリの明確な優位は出ませんでした。理由はおそらく、新規事例を「先に」アプリで入力したから。報告書づくりの時間は、ツールの操作性よりも「状況を整理して言葉にする」過程に大きく左右される、ということです。実際、状況が整理済みの過去事例では、アプリの方が短時間で終わっています。
一方、使用感は全項目でアプリが上。「今後も使い続けたい」4.6、「報告がしやすくなった」4.1。入力のしやすさが、報告を続ける文化を支えるかもしれない、という方向に考察を寄せました。
そしてもう一つ。この取り組みの裏テーマは、AIの「間接的」な活用です。AIを日常業務に直接使うのではなく、現場職員自身がAIを使って業務改善ツールを作る。今回の取り組みそのものが、まさにその一例でした。
倫理と個人情報の扱い
人を対象にデータを取る以上、ここは外せません。今回踏んだ手順です。
- 業務改善報告としての位置づけ:要綱を確認し、倫理委員会の承認は要しない業務改善報告の扱いで進めることを確認
- 院内の承認:GRM(医療安全管理者)と現場のリスクマネージャーの協力を得て、院内で正式に許可を取得。自作アプリの試験運用についても書類を提出して許可を得た
- 匿名化の徹底:患者氏名・患者IDは一切扱わず、案件はA01などの仮番号で記録。入力者も匿名IDで区別
「現場で作ったものを学会で出す」ときほど、許可と匿名化の手順を最初に踏むことが大事です。ここを飛ばすと、どんなに良い取り組みでも発表できません。
まとめ:現場の一職員でも、発表はAIと完走できる
振り返ると、AIがいなければここまで来られませんでした。テーマの壁打ち、先行事例の収集、シート作成、PDF集計、抄録の整形。締め切りまで時間がないなかで、一連の流れを通せたのはAIを相棒にできたからです。
ただし、丸投げではありません。測り方の設計・手書きの検算・タイトルとデータの整合・語尾の好みは、全部自分で決めました。AIは作業を肩代わりしてくれる相棒で、判断するのは人。その役割分担がはっきりしたのが、今回いちばんの収穫でした。
「発表を頼まれたけど、自分には無理かもしれない」。そう感じている人ほど、AIは強い味方になります。ただし、データも、その分析も、なぜそれをやったのかという考えも、最後は自分のもの。そこさえ手放さなければ、現場の困りごとを発表の形にして発信できる時代です。
次のステップ:発表スライドもAIで
抄録の次はスライドづくり。骨子プロンプトと環境別のツールの選び方をまとめました。
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