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症例報告スライドの作り方|患者情報をAIに入れずに骨子と見本を作る
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症例報告スライドの作り方|患者情報をAIに入れずに骨子と見本を作る


目次
    1. ―1)同意と倫理
    2. ―2)書き方
    3. ―3)PTとOT、AI、論文

PT出身で、いまは医療事務をしている室長てつです。理学療法士のころは、症例報告の発表と後輩のスライド指導をしてきました。

症例報告のスライド。作り始める前に、こんなところで手が止まっていませんか。

  • 何枚にすればいい? 何分で話す?
  • テンプレートはある? 見出しは何を立てる?
  • AIで作りたいけど、患者さんの情報を入れていいのか分からない
  • 同意や匿名化は、スライドのどこにどう書く?

骨子・見本・考察の観点は、提出先の決まりと架空の症例と一般論だけでAIに作らせます。実際の経過の文章を整えるときもAIは使えますが、条件は3つ。学習に使われない設定、名前・日付・施設を消す、珍しい点はぼかす。枚数は発表時間から逆算し、学会の一般口述(発表7分)なら7〜14枚が目安です。

発表の場ごとの目安(2026年10月時点・各案内の記載から)。

  1. 学会の一般口述:発表7分が多数。1枚30秒〜1分で7〜14枚
  2. 士会の症例検討会:発表10分前後(質疑・討論を含めて1症例30分の枠)
  3. 院内の症例検討会:私のときは発表5〜6分で12〜15枚(表紙込み)

先に知りたいところへ。

この記事でわかること。

  • 自分の発表の場に合う、時間と枚数の決め方
  • 患者さんの情報を入れずに、AIで骨子と見本を作る手順(プロンプト5つ)
  • 実際の経過の文章をAIで整えるときの3つの条件
  • 年齢・日付・施設名の伏せ方と、同意の一文の書き方の例
  • 後輩のスライドを見るときのチェック項目

研究発表(集計したデータの発表)のスライドは、学会発表スライドをAIで作る記事にまとめました。ここからは、1人の患者さんの経過を報告する「症例報告」の話です。


作る前に、提出先の決まりを確かめる

最初に開くのは、PowerPointでもAIでもなく、提出先の案内です。学会なら「演者へのご案内」「演題募集」、士会や院内なら症例検討会の案内や要項。

まず、自分の発表が「症例報告」なのか「症例研究」なのかを確かめます。学会によっては別の枠です。たとえば第24回日本神経理学療法学会学術大会の賞の募集要項は、臨床のプロセスを体系的に書くものを症例報告、事前の仮説に基づいて効果や因果関係を確かめるものを症例研究として分けていました(募集要項PDF)。症例研究なら、研究発表の組み立てに近くなります。

次に、案内から8つを書き出します。この並びは、あとでAIに渡すプロンプト①の入力欄と同じです。

確かめること案内で見る場所メモの例
発表時間と質疑演者へのご案内発表7分・質疑3分
枚数同上(書いていないことが多い)指定なし
見出しの指定演題募集・テンプレートはじめに/症例紹介/…
COIのスライド演者へのご案内2枚目に入れる
画面の比率同上16:9
発表者ツール同上使用不可
説明と同意の書き方演題募集・倫理の項スライド内に一文
生成AIの扱い演題募集・倫理の項記載なし

2026年10月に、PT・OTの学会・研究会の案内を8件読みました。

  1. 一般口述の時間:8件中7件が「発表7分+質疑3分」
  2. 枚数:明記は2件だけで、どちらも制限なし
  3. COI:6件が2枚目に置く指定
  4. 画面:6件が16:9の指定
  5. 発表者ツール:記載のある6件中5件が使用不可

発表者ツールが使えないと、ノート欄に原稿を入れておく作戦が使えません。原稿は覚えるか、紙で持つ前提で準備します。

生成AIの扱いは、場によって違います。第60回日本作業療法学会は演題登録のページで、生成AIを使った場合の開示を依頼し、「発表時のスライドやポスターに、使用した箇所と使用した生成AIの名称について記載してください。」としていました(第60回日本作業療法学会 演題登録)。一方、確認できたPT系の学会・研究会の案内6件には、演者向けの生成AIの記載が見当たりませんでした。書いていないことは「自由に使ってよい」という意味ではありません。迷ったら、事務局に問い合わせます。

案内を開いたら、この8項目をメモ帳に書き写す。これが最初の一歩です。

症例報告スライドは何枚? 発表時間から逆算する

枚数の統一基準はありません。決まるのは発表時間で、枚数はそこから逆算します。

発表の場発表時間枚数の目安
学会の一般口述発表7分・質疑3分(8件中7件)7〜14枚(1枚30秒〜1分で計算)
学会の主題演題(症例報告の枠)例:発表10分・質疑5分(第14回日本運動器理学療法学会)指定なし。同じ計算で10〜20枚
士会の症例検討会例:発表10分・討論10分・質疑10分で1症例30分(神奈川県理学療法士会)指定なし
士会承認の症例検討会内訳の規定なし。発表と質疑で可能な限り30分以上を推奨(日本理学療法士協会のマニュアル)指定なし
愛媛県理学療法士会のテンプレート10〜20分、または20分前後+討論10〜15枚、または15枚前後(配布ページ)
院内の症例検討会運営者の例:発表5〜6分12〜15枚(表紙込み)

1枚あたりの時間は、資料を問わず「30秒〜1分」でほぼ揃っていました。神奈川県理学療法士会のスライド作成の資料も、目安を1スライド30秒〜1分とし、枚数は発表時間(分)の1.5〜2倍としています(スライド作成の資料PDF)。7分なら10〜14枚。上の「7〜14枚」の内側です。

数えるときは、表紙とCOIを除いて何枚と決めておくと、話す時間の配分がぶれません。

構成の例は、第38回大阪府理学療法学術大会の「発表資料作成の手引き」が、症例報告の各パートの枚数を図で示しています(手引きPDF 26ページ)。図の目安を合計すると11〜17枚でした。PT・OT向けの無料テンプレートで有名な全15枚の型(be-therapist)には、COI・まとめ・参考文献のスライドがありません。学会に出すなら足します。

詰め込みすぎて時間を超える流れは、漫画にもしました。

AIに渡すものと3つの条件

AIに何を入れていいか。症例報告では、ここを一番はっきりさせておきます。

骨子・見本・考察の観点は、「器」「架空の症例」「一般論」だけでAIに作らせます。実際の経過の文章を整えるときもAIは使えますが、3つの条件をそろえてからです。

そのまま渡してよいもの条件つきで渡すもの渡さないもの
提出先の決まり(時間・見出し・COIの位置)匿名化した経過の文章(言い回しや話す順番の整理)氏名・ID・生年月日・実際の日付・施設名
空欄つきの骨子顔や名前が写った写真・画像
架空の症例の条件カルテや評価表の丸ごとのコピー
考察の観点を聞く一般論

症例報告でAIに渡すもの・渡さないもの。青=そのまま渡してよい(提出先の決まり・空欄つきの骨子・架空の症例の条件・一般論)、黄=条件をそろえて渡す(匿名化した経過の文章。学習に使われない設定・名前と日付と施設を消す・珍しい点はぼかす)、赤=渡さない(氏名やIDや実際の日付・顔や名前が写った写真・カルテや評価表の丸ごとのコピー)

医療介護のAIルールの記事で、入れる情報を信号の3色に分けました。病名・検査値・診療録は「赤=そのまま入れない」、年齢を年代にするなどの加工をしたものは「黄」、架空の例や空欄のテンプレートは「青」。匿名化した症例の経過は「黄」です。黄は、条件をそろえて慎重に使う色です。

症例報告で条件が要るのは、1人分の経過を順に並べるからです。研究発表の「集計した数字」なら一人ひとりの経過は残りません。症例報告では、名前を消しても、年代・診断・経過の組み合わせで誰のことか分かりやすくなります。医師向けの院内セミナー資料にも、詳しい病歴や検査結果をAIに直接入れないよう書いたものがありました(国立成育医療研究センター「若手医師のための生成AI活用術」)。

経過の文章をAIで整えるときの条件は、次の3つです。

  1. 学習に使われない設定のツールを使う:設定の確かめ方は学習に使われないAIの選び方へ
  2. 名前・日付・施設を消し、年齢は「70歳代」のように丸める:書き方は匿名化の表と同じ
  3. 珍しい点はぼかす:まれな診断名は上の分類(例:「進行性の神経疾患」)に、特徴的な出来事は「途中で合併症があった」程度に置き換える。正確な表現は、整った文章を手元でスライドに戻すときに入れる

3つ目が、症例報告ならではの条件です。症例報告に選ぶのは、文献であまり見ない症例や、典型的な経過から少しずれた症例が多いもの。珍しいほど、ほかの情報と組み合わせて特定されやすくなります。症例発表の作り方を解説した記事でも、匿名化の注意に「希少疾患など」間接的に特定されうる情報の扱いが挙がっていました(Felo「症例発表スライドの作り方」)。

学習に使われない設定は、1つ目の条件であって、それだけで十分ではありません。設定は情報の使われ方を変えるもので、職場の規程や患者さんの同意の範囲を広げるものではないからです。

リハ職105人へのアンケート(PT-OT-ST.NET 2026年調査。回答者は主任クラス以上が約7割)では、生成AIの用途の1位が資料作成で80%、不安の1位が個人情報の扱いで70%でした。資料づくりに使いたい、でも個人情報が怖い。症例報告は、その2つが一番ぶつかる場面です。

私が症例報告をしたのは、理学療法士になって2〜3年目、院内の症例検討会でした。当時はまだ生成AIがなく、先輩に聞いたり過去の見本を見たりしながら作りました。いまは院内の発表や院内研修の資料づくりでAIを使っています。いま症例報告をするなら、骨子と見本はAIで作り、匿名化した経過の文章の整理にも使うと思います。

始める前に、職場にAIの利用規程があるかを確かめます。規程で認められていなければ、3つの条件をそろえても経過の文章は入れません。迷ったら、症例報告での使い方を上司に確認してから始めます。

プロンプト①:提出先の決まりから、空欄つきの骨子を作る

最初の章で書き出した8項目を、そのまま入れます。患者さんの情報は1つも入りません。ChatGPTでもGeminiでも、そのまま貼って使えます。

リハビリの症例報告のスライドを作ります。
次の条件で、スライドの骨子を表にしてください。患者さんの情報はここには書きません。

【発表の場】(院内の症例検討会/士会の症例検討会/学会の口述 のどれか)
【発表時間】発表◯分(質疑◯分)
【枚数の目安】◯〜◯枚(表紙とCOIを数えない)
【見出しの指定】(案内に指定があれば貼る。なければ「なし」)
【COIのスライド】◯枚目に入れる/不要
【説明と同意の書き方】(案内に指定があれば貼る。なければ「なし」)

出力の条件:
1. 表の列は「番号/スライドのタイトル/入れる中身(空欄は【 】)/話す秒数」
2. 1枚に伝えたいことは1つ
3. 表紙・COI・説明と同意・まとめ・参考文献のスライドを含める
4. 指定にない見出しを足したときは「追加」と書く
5. 秒数の合計が発表時間に収まるようにする
6. 最後に、年齢・日付・施設名の書き方で、提出先の案内を確認すべき点を3つ挙げる

実際に、学会の口述(発表7分・質疑3分、見出しの指定なし、COIは2枚目、枚数は10〜12枚)の条件で動かしました。2026年10月15日、ChatGPTの無料版とGemini(Flash)です。ChatGPTが返した表の一部を載せます。

番号スライドのタイトル入れる中身話す秒数
1表紙演題名【 】/発表者【 】/所属施設【 】0
2COI開示すべきCOI【なし/あり(内容)】0
3はじめに臨床的背景【 】/報告する意義【 】35
4症例紹介年齢・性別【 】/診断名【 】/既往歴【 】/発症から介入までの経過【 】35
5初期評価心身機能【 】/活動・参加【 】/生活環境・希望【 】/主要な問題点【 】45
…………
11考察要因の解釈【 】/先行研究との比較【 】/妥当性と限界【 】65
12説明と同意取得状況【 】/倫理的配慮【 】15

同じプロンプトでも、2つのAIで中身が分かれました。

見るところChatGPTGemini
枚数14枚(表紙とCOIを除いて12枚)13枚(同じく11枚)
秒数の合計最初の表は7分25秒。超過に自分で気づき、7分に削り直した7分ちょうど。ただし表紙とCOIにも秒数を割り振った
説明と同意の位置12枚目(考察の後ろ)3枚目(症例紹介の前)
確認すべき点年齢・日付・施設名の書き方同じ3つ。ただし「実日付を禁じている学会が多い」と根拠を示さずに言い切った

返ってきた骨子で、確かめることは3つです。

  1. 秒数の合計。表の数字を自分で足す
  2. 説明と同意の位置。AIによって違うので、提出先のテンプレートや過去の演題に合わせて動かす
  3. 根拠のない言い切り。「多くの学会が〜」のような一文は、提出先の案内で確かめる

骨子ができたら、PowerPointに写します。

  1. 表の「スライドのタイトル」を、各スライドの題にする
  2. 「入れる中身」の【 】は、空欄のまま本文に置く
  3. 「話す秒数」は、ノート欄ではなく別の紙にメモする(発表者ツールが使えない場が多いため)

骨子からスライドの見た目まで自動で作るツール(GammaやイルシルなどのAIスライド作成ツール)を使う場合も、空欄のまま作ってPowerPoint形式で書き出し、中身は手元で入れる使い方に限ります。PowerPoint形式の書き出しは、Gammaは無料プランでもできますが、ファイルに「Made by Gamma」の表示が入ります。書き出したあと文字を打ち替えられることは実測の記事で確かめました。イルシルの書き出しは有料のパーソナルプラン(月1,848円・税込)からです(どちらも2026年10月時点)。

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骨子を印刷して、空欄の横に「数字の出どころ」を書き込んでおくと、あとで手元の記録から入れるときに迷いません。たとえば「10m歩行:初回と8週目、評価表から」のように。

プロンプト②:架空の症例で、見本のスライドを作る

骨子だけでは、完成したときの姿が見えにくいもの。そこで、架空の症例を入れた見本を作らせます。

次の骨子に架空の症例を入れて、見本のスライド文を作ってください。
実在の患者さんではありません。練習と見本のためのものです。

【骨子】(プロンプト①の表を貼る)
【架空の症例の条件】
- 領域:(例)回復期の脳卒中/大腿骨近位部骨折の術後/通所リハ
- 経過:(例)介入8週間
- 使う評価:(例)FIM・10m歩行・TUG から3〜4個

条件:
- 数値はもっともらしい架空の値にし、各スライドの右上に「架空症例」と書く
- 実在の論文名・著者名は書かない
- 1枚の文字は横15字×8行程度まで

プロンプト①の続きで、回復期の脳卒中・介入8週間・FIMと10m歩行とTUG、の条件を入れて動かしました。ChatGPTが返した見本から3枚です。

【4 症例紹介】       右上:架空症例
70歳代・男性
診断:脳梗塞
右片麻痺を呈する
回復期病棟に入院
歩行に介助を要する
介入期間:8週間

【9 最終評価】       右上:架空症例
FIM:80→108点
10m歩行:22.4→13.1秒
TUG:28.6→17.8秒
歩行速度が向上
移動能力も改善

【11 考察】         右上:架空症例
反復練習が改善に寄与した可能性がある
歩行課題の練習により移動能力が
向上した可能性が考えられる
自然回復等の影響は否定できない

「架空症例」の表示は、ChatGPTもGeminiも全部のスライドに入れていました。ただ、Geminiの見本には、そのまま写すと困る文が4つ混ざっています。

スライドGeminiが書いた文困る点
説明と同意書面にて同意を取得済(当院倫理審査承認:承認番号 模擬-2026-01)架空の症例なのに、同意と承認を「済」と書いている。写すと、取っていない同意や承認を書くことになる
最終評価全評価指標で有意な改善を達成「有意」は統計の言葉。検定をしていない1症例の前後比較には使わない
考察旋回・動的バランス反復がTUG大幅短縮を導いた介入が効いたと言い切っている。自然な回復の影響に触れていない
参考文献架空一郎 ほか:片麻痺歩行のリハ戦略. 架空リハ研究 12: 1-6, 2024.実在しない文献が、本物そっくりの書式で入っている。消し忘れると、そのまま残る

ChatGPTの見本にも抜けがありました。長期目標の「屋内歩行自立」を達成したかどうかが、最後までどのスライドにも書かれていません。

見本で見るのは、並び順と1枚の文字量です。文の言い回しは、実際のスライドに写しません。

見本の使い道は2つです。

  1. 自分の完成イメージ:1枚にどれくらい書くか、どの順で並べるかの目安になる
  2. 後輩の練習:実在の症例を使わずに、構成と話し方を練習できる

AIで作った架空の理学療法の症例を教育に使う取り組みは、海外の学会でも報告されています(AHFE国際会議 IHIET-AI 2025の論文。抄録の範囲で確認)。

ひとつ注意。架空の条件を、いま担当している患者さんに寄せないこと。年代・経過・評価の組み合わせを実在の人に合わせた時点で、架空ではなくなります。

実際の症例は、手元のPowerPointで入れる

ここからはAIを閉じて、手元の記録から骨子の空欄を埋めます。

伏せ方で気をつけたいのは、消しすぎです。年代も性別も経過も伏せると、聞き手は何の話か分からなくなります(漫画でも描きました)。伏せる情報と残す情報を分けて考えます。

書き方の基準は、団体によって違います。

項目書き方の例
氏名イニシャル可(大阪府理学療法学術大会 第38回)/イニシャル不可、A氏・Bさんなどの記号に(栃木県作業療法士会の手引き)
年齢「20代」などの範囲で(大阪府)/内容に影響しなければ「50代前半」など(栃木県作業療法士会)
日付生年月日・入院日は書かず、経過日数で(栃木県作業療法士会)/発症日を第1病日として実際の日付は書かない(臨床神経学の解説)
施設・地名施設の種類で表し、県名はA県などに(栃木県作業療法士会)/「A病院」などのブラインド記載(学術誌「作業療法」)
データテーマに関係するものに絞る(栃木県作業療法士会)
画像・写真カルテの画像は識別できる情報を黒塗り、写真や動画は事前に同意を得る(大阪府)

出典:大阪府 手引き/栃木県作業療法士会 事例報告書作成の手引き/臨床神経学 65巻6号/日本作業療法士協会 執筆要領

イニシャルひとつ取っても、可と不可に割れています。表の例は「よくある書き方」であって、基準は提出先と所属施設の決まりです。

説明と同意も、スライドに一文で書く運用があります。第14回日本運動器理学療法学会は、抄録の倫理欄の例として次の文を示していました(倫理的配慮の例PDF)。

本症例報告にあたっては、患者(または家族)に研究の趣旨を説明し、書面による同意を得た。

大阪府の手引きは、倫理面の配慮をスライド内のどこかに必ず書くよう求め、倫理審査を受けた場合と受けていない場合の2通りの例文を載せています。愛媛県理学療法士会のテンプレートにも、症例のスライドに「説明と同意を得ているか明記」とあります。

倫理審査が必要かどうかは、施設と提出先で決まります。学術誌「理学療法学」の投稿規定は研究に倫理委員会の承認を求めていますが、症例報告にも同じ扱いを求める趣旨かは、規定からは読み取れませんでした。ここは断定せず、所属先の倫理委員会や上司に確認してください。

同意書のひな形は、この記事には載せません。施設や倫理委員会の様式が先にあるはずだからです。

私のときは、同意を書面でもらい、患者さんにも発表することとその経緯を説明しました。年齢は「70歳代」のように書いています。施設に明文化された決まりはなく、先輩に聞いたり過去の見本を見たりして合わせました。決まりがはっきりしない職場では、この「先輩と過去の見本で確かめる」が現実的な方法です。

埋めたスライドを丸ごとAIに貼って「整えて」と頼むのはやめます。言い回しを整えたいときは、整えたい段落だけを取り出し、3つの条件をそろえてから渡します。整った文章に、手元で正確な数字と表現を戻してからスライドに入れます。

考察と質疑の準備は、AIに一般論で聞く

考察は、症例報告で一番悩むところです。ここも、患者さんの情報は入れず、テーマを一般論にして聞きます。

リハビリの症例報告の考察を書く前に、観点を整理したいです。
患者さんの情報は書きません。一般論として答えてください。

【テーマ】(例)回復期の脳卒中で、歩行の自立度が上がった要因の考え方
【見たい観点】(例)介入の内容/量と時期/自然な回復/評価の限界

出力:
1. 考察で触れる観点を5つ。それぞれ1〜2行で
2. 観点ごとに、確かめるための調べ方(検索語・見る資料の種類)
3. 論文の題名・著者名・数値は書かない。書く場合は「要確認」と付ける

論文名を書かせないのは、AIがもっともらしい文献や数字を作ることがあるからです。Gammaでスライドを作ったときは、抄録に書いていないはずの比率が入っていました(実測の記事)。文献は、出てきた観点をもとに自分で探し、原典で確かめます。

質疑の準備には、空欄のままの骨子を渡します。

症例報告の骨子を貼ります。中身の空欄は空欄のままです。
座長とフロアから出そうな質問を10個挙げてください。

【骨子】(プロンプト①の表)
【発表の場】◯◯(質疑◯分)

出力:
1. 質問(座長から5つ・フロアから5つ)
2. 答えるために手元に用意しておく情報(評価の日付・数値・介入の頻度など)
3. スライドに足しておくと質問が減る点

プロンプト①で作った架空の骨子を渡して、ChatGPTで動かしました。出てきた10個の質問から5つを要約して載せます。

誰から出てきた質問(要約)
座長なぜこの症例を報告しようと思ったのか
座長改善は、自然な回復や他職種の関わりでも説明できないか
フロア初期評価と最終評価は、正確にはいつ行ったか
フロア10m歩行とTUGは、どんな条件で測ったか(補助具・装具・TUGの開始姿勢)
フロア数値の変化で、生活の何が変わったか

「スライドに足しておくと質問が減る点」では、ChatGPTもGeminiも同じところを挙げました。評価のスライドに測定条件を1行、介入のスライドに頻度と1回の時間を書いておくことです。Geminiは「※10m歩行:最大歩行速度、前後助走路各2m、T字杖・SHB装着下」という書き方の例も出しています。

ここでもGeminiは言い過ぎていました。経過のスライドに装具や介助量の変化を時系列で並べると「介入と回復の因果関係が一目で伝わります」と書いています。並べて見えるのは時期が重なっていることまでで、介入が効いた証拠にはなりません。座長が聞いてくる「自然な回復では?」に答えるための材料として並べます。

手元に用意する情報の一覧(評価の日付、介入の頻度、中止基準など)は、紙に書き出して演台に持っていきます。実際の日付や数値を書き込んだメモは、AIに貼り戻しません。

発表原稿の作り方と、質疑の練習の進め方は、有料noteにまとめています。題材は研究発表の架空の抄録ですが、原稿を話し言葉に直す手順と、想定質問の練習は症例報告でも同じです。

有料noteを読む(800円)

発表原稿・想定質問・練習チェックリストと、プロンプト一式

後輩のスライドを見る人へ

指導する側に回ると、見るポイントがだいたい決まってきます。

私が一番よく伝えていたのは、情報の詰め込みすぎです。言いたいことがたくさんあるのは分かります。それでも1枚に情報が多いと、聞き手は読むのに追われて、話が入ってきません。そこでスライドを分けて、1枚に1つの意図を持たせるように伝えていました。

提出前に一緒に確かめる項目です。

  • 提出先の決まり(発表時間・COIの位置・16:9)に合っているか
  • 1枚に伝えたいことが1つになっているか
  • 数字の出どころ(どの評価の、いつの値か)を言えるか
  • 匿名化の漏れがないか(日付・施設名・写真の映り込み)
  • 説明と同意の一文が入っているか
  • 時間内に話し終わるか(声に出して計る)

自分の職場向けのチェックリストは、AIに作らせることもできます。チェックリストを作るだけなら、後輩のスライドそのものは貼りません。中身は実際の症例で、チェックリスト作りには要らないからです。

後輩の症例報告スライドを見るときのチェックリストを作ってください。
スライドそのものは貼りません。

【発表の場】◯◯(発表◯分・質疑◯分)
【提出先の決まり】(COIの位置・同意の書き方・見出しの指定)

出力:
1. 提出前に確認する項目を15個以内。「決まり」「構成」「数字と出典」「個人情報」「時間」に分ける
2. 各項目は「はい/いいえ」で答えられる形にする

練習には、プロンプト②で作った架空症例の見本が使えます。実在の症例を持ち出さずに、構成の組み立てと話す練習ができます。

院内や部署内の発表なら、予行演習でいろいろな人に聞いてもらえます。後輩の予行演習には、私も聞き手として入っていました。私自身は、それとは別に、1人で何十回も声に出して練習しました。

よくある質問

同意と倫理

同意書は要る?

提出先と所属施設の決まりが先です。大阪府の手引きや愛媛県理学療法士会のテンプレートのように、スライドに同意の一文を入れる運用もあります。同意の取り方(書面か口頭か)は、施設の様式に従います。

倫理審査は要る?

施設と提出先によって違い、一律には言えません。所属先の倫理委員会や上司に確認してください。所属先に倫理審査の窓口がない場合、日本理学療法学会連合が会員向けに審査を受け付けています(対象は投稿予定の論文などで、案内ページで確認)。

書き方

年齢や日付はどう書く?

年齢は「70代」「60代半ば」などの範囲、日付は実際の日付を書かず「第1病日」「介入4週目」などの経過で書く例が多く見られます。詳しくは匿名化の表へ。

イニシャルは使える?

団体で割れます。大阪府理学療法学術大会(第38回)の手引きは可、栃木県作業療法士会の手引きは不可(A氏・Bさんなどの記号)。提出先の案内を確認し、書いていなければ記号にしておくのが無難です。

「はじめに」には何を書く?

私は、文献であまり見ない症例や、典型的な経過から少しずれた症例を選ぶことがありました。そのときの「はじめに」には、なぜこの症例を報告するのか(文献での報告が少ない、典型と違う点がある)を書きます。こうした珍しい症例ほど、AIに渡すときは珍しい点をぼかすことを忘れずに。

大阪府の手引きの構成例では、「はじめに」は1枚です。この症例を報告する理由(何が臨床の疑問だったか)を、短く置きます。

何枚にすればいい?

発表時間から逆算します。1枚30秒〜1分で、発表7分なら7〜14枚。枚数の表に場ごとの目安をまとめています。

PTとOT、AI、論文

作業療法の場合は?

制度が別なので、日本作業療法士協会の案内を確認してください。たとえば認定作業療法士の新規申請で出す臨床実践報告書は、学会などで報告済みの事例内容の重複・転用・流用が認められていません(2026年10月時点、協会のページ)。学会で発表した症例を、そのまま申請に回せるとは限りません。

AIを使ったことは書く?

提出先の決まりに従います。第60回日本作業療法学会は、スライドに使用した箇所とAIの名称を書くよう依頼しています。確認できたPT系の学会の案内6件には記載がありませんでした(2026年10月時点)。記載がない場合も、事務局に聞いておくと安心です。

論文にするときは?

雑誌ごとに投稿規定があり、同意や匿名化の書き方もスライドとは別に決まっています。たとえば理学療法ジャーナルは、匿名化が十分にできない場合、掲載への同意を文書で得て本文に明記するよう求めています(投稿規定)。この記事はスライドまでの話です。


この記事のまとめ

  1. 最初に開くのは提出先の案内。時間・枚数・見出し・COI・16:9・発表者ツール・同意・生成AIの8つを書き出す
  2. 枚数は発表時間から逆算。1枚30秒〜1分で、発表7分なら7〜14枚
  3. 骨子・見本・考察の観点は、「器」「架空の症例」「一般論」だけでAIに作らせる
  4. 経過の文章をAIで整えるなら、学習に使われない設定・名前と日付と施設を消す・珍しい点をぼかす、の3つをそろえる
  5. 匿名化と同意の書き方は団体で割れる。基準は提出先と所属施設の決まり
  6. AIが挙げた文献や数字は、原典で確かめる
  7. 後輩の指導には、架空症例の見本とチェックリストを使う

明日やることを1つだけ挙げるなら、提出先の案内を開き、発表時間・枚数・COIの位置・同意の書き方の4つをメモすることです。そこが決まれば、プロンプト①に入れる材料はそろいます。

研究発表のスライドは、こちらにまとめました。

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学会スライドはもうゼロベースで作らなくていい。抄録からスライド骨子を出すプロンプトを公開します。1スライド1メッセージ・発表時間からの枚数配分・視線誘導——この3つを指示に織り込むだけでAIの出来は見違えます。PowerPointがない職場での無料の組み合わせと、発表データを入れる前の注意点まで。

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考察で使う文献を探す手順は、こちらにまとめました。

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論文の探し方|学会発表・症例報告の根拠を探す手順(医療職向け・AIの使い方も)

学会発表や症例報告の考察に使う論文の探し方を、医療職向けにまとめました。問いを1文にして、論文検索AIのConsensusで傾向をつかみ、日本語の論文はJ-STAGEで探し、抄録で選んで引用する論文だけ全文を読む。図書室のない職場で全文を手に入れる方法と、PubMed用の検索語をAIに作らせるプロンプトも載せています。

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患者さんの情報をAIに入れるときの線引きです。

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医療・介護で生成AIを使うルール5つ|公的ガイドラインに基づく患者情報の線引きと掲示できる10か条

患者情報はどこまでAIに入れてよいのか。2026年4月施行の改正ガイダンスを含む公的ガイドラインをもとに、入れてよい情報の線引き、AIサービスの選び方、そのまま掲示できる院内ルール10か条を、通所リハの管理職が現場目線で整理しました。施設名と窓口を埋めるだけで掲示できるWord・PDFのひな形も無料で配布しています。

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ポスター発表になった人は、こちらから。

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学会ポスターの作り方。AIに骨子を出させて、A0を1枚で読ませる3つの原則

抄録は通ったのに、ポスターを何から作ればいいか分からない。抄録を貼ると骨子が返るプロンプトと、骨子からポスター本体を作らせる指示を公開します。文字サイズの目安、PowerPointのサイズ上限、印刷先の選び方まで。

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学会に出す前の抄録づくりは、こちらに書きました。

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学会発表の抄録をAIで2時間で作る手順【3ツール比較】

発表準備に2週間〜1ヶ月かかっていたのが2時間に。語尾変換30分→5秒。医療介護現場の理学療法士が実際に使っているAI活用手順をプロンプト例つきで公開。Claude/ChatGPT/Gemini/Gemini Notebookの使い分けまで網羅します。

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このブログでは、医療介護現場で実際に使っているAI活用術を発信しています。 Xアカウント(@genba_pt_ai)でも毎日情報を発信中です。